株式会社フォーリーフを訪ねて-1

フォーリーフ外観_4

 

上山城や温泉で有名な山形県上山市。今回、かみのやま温泉駅から車で15分程の蔵王の森工業団地にある、マイクロホンの製造を一つ一つ手作業で行っているマイクロホンメーカー「フォーリーフ」を訪ねました。

 

昨今、マイクロホンの自作は海外で盛んに行われており、GoogleやYouTubeで「DIY Microphone」と検索すると、マイクロホンビルダー向けの制作記事やマイクロホンの組み立てキット、部品のオンラインショップなどの情報にたどり着くことが多くなりました。そこでは、自作したマイクロホンで録音した楽器演奏やフィールド・レコーディングしている音源がネット上にアップロードされ、マイクロホンの制作や録音された音質についてたくさんの人が楽しんでいることがわかります。このようにマイクロホンを制作するための様々な情報は、比較的簡単に入手できるようになっています。日本でも、最近では徐々に自作でマイクロホンを制作する方も増えており、自身で考案した回路図や制作例が多数紹介されています。
秋葉原にある秋月電子通商で部品として入手した、国内で唯一入手可能な高音質で録音できるコンデンサーマイクロホンカプセルがフォーリーフ製であったことが、今回、取材に訪れる切っ掛けとなりました。私自身、用途に特化した自作マイクロホンを制作していることもあり、マイクロフォンビルダーやこれから自作してみたい方に向けて、コンデンサーマイクロホンカプセルの製造過程の取材と、マイクロホンを自作するにあたってのアドバイスを伺ってきました。

 

フォーリーフ外観_3

 

フォーリーフは、2000年6月に山形県上山で創業。前身に当たる「テスコ音響研究所」から合わせると64年と長きに渡ってマイクロホンの製造を行い、2000年にはテスコ音響研究所から事業を引き継ぐ形でフォーリーフとして事業を行うこととなりました。現在は、(株)オーディオテクニカや海外メーカーのOEM製品、自社ブランドなどのエントリーモデルからフラグシップモデルまで製造しており、一部の自社ブランドのコンデンサーマイクロホンカプセルは、秋葉原の秋月電子通商にて購入できます。 秋月電子通称  フォーリーフ

 

 

コンデンサーマイクロホンに使われるカプセル部品の製造

フォーリーフ_ライン2

 

コンデンサーマイクロホンは、楽器のレコーディングやハンディレコーダーなどに使われているもので、今回はその心臓部分に当たるコンデンサーマイクロホンカプセルの部品製造について、フォーリーフの取締役工場長の大沼哲男さんに案内していただきました。早速、工場の製造ラインを見せていただき、まず驚いたのがすべての組み立て工程が手作業で行われていることです。伺った時は、直径5ミリのコンデンサーマイクロホンカプセル(EB-5400 秋月電子通称にて発売中)の製造の真っ最中でした。ここでは他にも小ロットで多品種、用途によってカスタマイズされたコンデンサーマイクロホンカプセルの製造を柔軟に対応しているため、一見すると不規則でバラバラなように見える流れで製造されていました。今回、掲載の許可をいただいた製造工程の一部分についてご紹介します。

 

 

コンデンサーマイクロホンの構造と動作について

コンデンサーカプセル図

コンデンサーマイクロホンカプセルの構造は図のようになっています。音を受ける側のダイアフラム(振動板)とバックプレート(固定極)の2枚で構成されています。固定極であるバックプレートにエレクトレット素子を使用することで、振動板を振動させた時に微小な電流が流れます。 この電流から発生した電圧を増幅することで、音声の電気信号を取り出しています。

 

※ 図はFETが内蔵された一般的なエレクトレット方式のコンデンサーマイクロホンです。

 

 

 

 

写真左は、ミクロン単位のとても薄いフィルムを治具を使って、コンデンサーマイクロホンカプセルの振動する振動板(可変電極)を手作業で切り出しているところです。

 

フォーリーフ_ライン1

 

コンデンサーマイクロホン製造でとても重要な作業、エレクトレット化する作業を行っています。この作業によってコンデンサーの静電容量に変化が生じ、微弱な音声信号を取り出すことができるようになります。 

 

 

写真左は、ハンディプレス機で専用の治具を用いてカプセル本体の噛めを行うところです。

 

 

 

 

写真左は、外径5ミリのコンデンサーマイクロホンカプセルに、細いハケで接着剤を素早くぬり、写真右は、ピンセットを使って保護シートを貼り付けています。

 

 

高価格帯カプセルの組み立てをしている様子

フォーリーフ_組み付け1

 

フォーリーフ_組み付け2

 

フォーリーフ_組み付け4

 

 

 

マイクロホンの仕様の調整作業

フォーリーフ_ハンダ

 

マイクロホンの仕様を調整するため、直径1ミリのチップコンデンサーをピンセットで固定します。

 

電子部品の状態を確認した後、熱で損傷させることなく素早くハンダ付けをおこないます。

 

 

 

外径5ミリのコンデンサーマイクロホンカプセル(写真左)に直径1ミリのチップコンデンサー

 

 

(右写真)がハンダ付けされました。この後、直ぐに無響室にカプセルが運ばれ品質検査がおこなわれます。

 

 

工程内検査

フォーリーフ_検査

 

製造されたコンデンサーマイクロホンカプセルは、周波数特性や感度に問題がないか全て検査していきます。

 

 

測定を行うマイクロホンを取り付け、コンピュータ制御で測定結果が数秒でモニター(写真右)に表示されます。

 

 

無響室による検査

フォーリーフ_無教室3

 

無響室はテスコ音響研究所の時代に自作で防音素材(グラスウール)を切り出し自作したもので、現在も一部を改装して使用しています。無響室では、マイクロホンの周波数特性やポーラパターンの測定がコンピューター制御で自動化されており、グラフ化された測定データを即時に確認することができます。

 

 

また無響室では、Bruel & Kjaerの標準マイクロホンによる測定機器も完備されており、要望に合わせたマイクロホンの測定が可能となっています。

 

 

 

今回、フォーリーフの工場に伺うにあたり、疑問点や自作マイクロホンへのアドバイスをフォーリーフ アドバイザーの秋野裕さんにご回答いただきました。

・自作マイクロホンを製作する場合、公表されているカタログの何を参考にするのがよいでしょうか?

 

最初に使われる用途に応じて指向性を選ぶと良いかもしれません.指向性は大きく無指向性と単一指向性に分けられます.無指向性のユニットでは近接効果が無いので自然な音が取れると思います.単一指向性には近接効果があるのでこれを活用した収音に適しています.また収音する環境で目的音を主に取りたいときにも単一指向性のユニットが良いと思います.次に周波数応答や信号対雑音比を作りたいマイクロホンに合わせて選定してゆくと良いと思います.消費電流等は他の電子回路に比べると小さいので,あまり重要な数値ではないかもしれません.

・コンデンサーマイクロホンカプセル音質の良し悪しには何が影響しているのでしょうか?

コンデンサーマイクロホンカプセルは搭載されるマイクロホン本体設計からの必要性で選ばれます.マイクロホン本体を設計するときには基本性能を十分に確保するように設計してゆきます.なるべく音質に特長が出ないようにするのですが,いろいろな評価をいただきます.(マイクロホンは音を扱う御仕事をされている方々にとって「マイクロホン」は工具や道具の様なものだと思います.このため音色や音の特長を作るのは音を扱う御仕事をされる方々だと思います.「マイクロホン」=「工具や道具」と考え,基本性能を重視して特徴のある音が発生しないようにしています.)音質の違いの原因は良く判らないのですが,マイクロホン全体のバランスが重要なのではないかと考えています.音質はカプセルだけではなく,取付け構造やヘッドケースを含むケースの部分,回路構成そして最後にはマイクロホン本体を保持するマイクサスペンションなども検討されます.

・コンデンサーマイクロホンカプセルの口径は音質にどのような影響があるのでしょうか?

音質を一言で表すのは難しいと思います.一般的なことですが,スタジオ収音の音声(歌声など)の場合には1インチ程度より大きな単一指向性コンデンサーマイクロホンが使われています.楽器に近接させて収音するときには19mm〜21mmぐらいの口径のペンシル型の単一指向性コンデンサーマイクロホンが使われることが多いようです.クラッシックの収音では1/2インチの無指向性コンデンサーマイクロホンや19mm〜21mmぐらいの口径のペンシル型の無指向性コンデンサーマイクロホンなどが使われています.収音する音と求める音質に応じてマイクロホンを選んで使っているようです.私の感じからすると振動板が動きやすく,比較的口径が大きなものは豊かな音が収音できるように思えて好きなマイクロホンです.口径が5mmの無指向性マイクロホンで収音すると忠実な音が収音されているように感じられます.

・コンデンサーマイクロホンカプセルの音質の良し悪しは価格に比例するのでしょうか?

例えば,大きな口径のコンデンサーマイクロホンユニットを作るためには作成に必要な材料や加工装置そして組み立てる人たちのスキルが必要になります.特に組み立てる人たちのスキルが重要です.作業について図や文章に書くことができる部分もあるのですが,書き表せないところが特に重要です,組み立てる人たちの手に宿ったいわゆる「ノウハウ」が「メーカーのお宝」なのです(なぜなのかを本人に聞いても,本人がうまく説明できないですが,難易度の高いユニットが作れるのです).このため,良好な指向周波数応答と信号対雑音比を実現するためには,それに応じた部品や設備などのコストと組み立てる人たちの「技」が必要になります。そのため結果的に価格に比例します。

・自作マイクロホンで室内録音をした場合の、蛍光灯のノイズなどの影響について

蛍光灯には2つのノイズがあります.一つは蛍光管の電極間では放電しているのですが,この交番電界の静電結合による雑音です.もう一つは蛍光灯には安定器といってコイルがあるのですが,この交番磁界の磁気結合による雑音があります.静電結合によるノイズはマイクロホンのケースのシールドの出来栄えで良し悪しが決まります.見栄えは悪くともアルミホイルなどでインピーダンスの高い部分は隙間なくシールドすると良くなります.アースの接続はできるだけ確実な方が良いのは判っていますが,マイクロホンコードとマイクロホンケースの接続部のアースの接続を確実にすると良いと思います.磁気結合による雑音はマイクロホンの回路にトランスなどを用いると発生しやすくなります.磁気シールドを完全にするためには高価な磁性材料が必要になります.簡単には,蛍光灯からマイクロホンを遠ざけることが良いと思います.現在では携帯電話からの干渉が問題になることがあります.簡単な方法は雑音発生物からマイクロホンとマイクロホンコードを遠ざけることです.

・自作マイクロホンの製作する上でのアドバイスを教えてください

マイクロホンの製作記事はネット上で国内外を問わず数多く紹介されています.まず,他の人がどんなことをしているか調べてみると良いでしょう.できればJEITARC-8160C「マイクロホン」とRC-8162D「マイクロホンの電源供給方式」などで調べていただけると,より良いマイクロホンが作れると思います.回路などは机上で比較的実験しやすいので数多く試作して,その特徴を知ると良いかもしれません.作れるマイクロホンの範囲が広がります.上級者コースとしてホームセンターにある材料でコンデンサーマイクロホンユニットを作ってみるのも良いかもしれません.知識も大切ですが,腕はもっと大切かもしれません,最も大切なのは情熱なのだと思います.とかく作って音を聞いてしまうと「アバタもエクボ」のように愛着がわいてしまうのですが,時には自分の作品を厳しく評価することも必要かもしれません.

 

株式会社フォーリーフ マイクロホンを訪ねて 2に続く

 

 

基本情報

株式会社フォーリーフ
Four-Leaf Co., Ltd.

 

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〒999-3103 山形県上山市金谷字鼠谷地1454-6​
TEL 023-673-2825 FAX 023-679-8260

 

ウェブサイ

https://www.fourleaf-mic.com/

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  • 2023年9月26日