Nick Luscombe氏へのインタビュー Part 1

Nick Luscombe

Image by SAM KING.

 

ロンドンと東京を拠点として活動されているNick Luscombe氏にインタビューさせていただきました。Nick氏は、イギリスの国営放送BBCラジオのサウンドエンジニアであり、ラジオプロデューサー、ラジオパーソナリティ、また、英国iTunesの音楽編集長、日本では、TOKYO FM「DEMYSTIFY」などを歴任、現在は、CIC Tokyoで月曜日にライブ配信を担当していらっしゃいます。 Nick氏は多様な活動をされていることから、インタビューを二回に分けて構成することにいたしました。第一回をあまり取り上げられていないサウンドスケープアーティストとしての側面と、ディレクションされたコンピレーションアルバム『Fieldwave』について伺い、第二回は、プロジェクトについて「MSCTY Project」と「Otocare Project」について伺っています。幅広い活動を通し、Nick氏から見えている現在のサウンド(音)の視点について伺っています。

 

 

フィールド・レコーディングを始めた動機と可能性

・始めたきっかけは?

私は1990年代後半に初めて日本に来日し、ポータブルMDレコーダーとマイクを購入しました。東京を旅していると、自分の周りの音が信じられない!ということで、すぐにフィールドレコーディングを始めました。写真を撮るだけでは不十分で、街の本質を捉えるには音の録音が不可欠だったのです。それからは、画像よりもはるかに多くの音を記録するようになりました。

・フィールド・レコーディングの魅力は何ですか?

ほぼ毎日録音しているのですが、毎回音の組み合わせが違うのが魅力です。世界の音を吸収することは、とても素晴らしいことです。また、録音は新しい物語が展開されるのを目撃する方法です。

 

Nick Luscombe recording-1

・フィールドレコーディングでは、どのようなことに気を配っていますか?

その場の空気感を大切にし、その瞬間のストーリーを正確に伝えるために録音しています。
・フィールドレコーディングの音は、音楽の素材であり、その場所の記録であり、固有の意味を持っていると思います。これについては、どのようにお考えですか?

そうですね…それらすべてです。音は多次元的であり、テクスチャー的に、記憶のトリガーとして、信号として、そして瞬間として、とてもユニークに音は作用します。

・フィールドレコーディングの可能性とは何でしょうか?

私にとってフィールドレコーディングは、積極的に耳を傾け、その瞬間に意識的に参加するチャンスです。この瞬間を捉え、記録することで、他の人と共有することができ、新しい層、新しい瞬間、物語を創り出すことができるのです。

 

Nick Luscombe recording-3

・フィールドレコーディングの仕事について教えてください。

私の作品の一例として、『Fieldwave Vol,2』に収録されている「TOKYO TR」があります。この作品は、交通情報放送や郊外の公園、鉄道などとともに、よく整備された道路を走る滑らかなタイヤの音など、魅惑的でリラックスできる音を中心に丸の内で録音されました。

この街の動きがリアルに伝わってくる。

 

音源を聴くことができます。>> www.mscty.space/project/tokyo-tr

 

TOKYO TR

・日英のサウンド活動で、クリエイション、差異、ローカリティなどの違いはありますか?

イギリスではフィールド・レコーディングのシーンは非常に発達しており、ごく普通に行われているように思えます。しかし、日本ではフィールド・レコーディングを専門に活動している作家はほとんどいないですね。

 

 

録音機材について

Nick Luscombe recording-2

・どのような録音機器をお使いですか?

LOM、Sennheiser、Rodeの各種マイクと、ZOOM製のサウンドレコーダーを主に使用しています。ハイドロフォン、ジオフォン、コンタクトマイクなどなど。

・マイクのセットアップ(AB、XY、ORTF、NOSなど)はどのようなものがお好みですか?

マイクセッティングは、状況によって本当に様々です。

 

 

コンピレーションアルバムについて

・コンピレーションアルバム『Fieldwave』をリリースすることになった経緯を教えてください。

私は、Nonclassicalというイギリスのレコードレーベルで、ごくパートタイムでA&Rコンサルタントとして働いていました。私の役割は、新しいアーティストを発掘して、レーベルと契約してもらうことでした。Nonclassicalは、新進気鋭のクラシック音楽アーティストによる新しい音楽の紹介に重点を置いています。この頃、私はBBC Radio 3でラジオ番組の司会もしており、番組で演奏した様々なレコードや私自身のMSCTYプロジェクトとミックスしたフィールドレコーディングを使用した先駆的な試みを行っていました。そして、私の番組のリスナーが実際のフィールドレコーディングに興味を持ち、どこで買えるのかとよく聞かれることに気づきました。そこで、フィールド・レコーディングのコンピレーション・シリーズを作ったらいいのではないかと思い、私がマネージメントとプロデュースをするサイド・プロジェクトとしてレーベルに持ち込んだのです。現在、2巻まで出ていて、3巻目を開発中です。

 

Fieldwave Vol.1-2

 

Fieldwave Vol.1-1

 

Fieldwave vol.2-1

 

Fieldwave vol.2-2

・なぜNonclassicalレーベルからリリースすることにしたのですか?

レーベルとのコラボレーションというアイデアが気に入ったということもありますし、クラシック音楽の学校教育とは絶対的に正反対のものだったからです。フィールドレコーディングは、バックグラウンドやクラシック音楽のトレーニングなどに関係なく、誰にでも開かれたものです。

・Vol.1とVol.2に分かれた理由は何でしょうか?

純粋にカセットテープのスペースのためです。Vol.1がとても良かったので、日本からVol.2を作りました。次はVol.3です! 同じフォーマットで、もっとたくさん作る予定です。

この2枚のアルバムをリリースして、どんなことを感じましたか?

作り手としても消費者としても、音や音楽がいかに大切なものであるかということが分かってきました。

・『Fieldwave』のアーティストのセレクションは、そのように決定されたのですか?選曲について教えてください。

はい、私がラインナップをキュレーションしています。なぜなら、私はこのプロジェクトの美学にとても近いものを感じているからです。『Fieldwave』という名前は私にとって何か意味があるのですが、もしかしたら他の人は誤解したり、違う方法でアプローチしているかもしれませんからね。

セレクションはとてもバラエティに富んでいて、ストレートな録音もあれば、エフェクトをかけたもの、ほとんど音楽のようなものなど…。

 

・カセットテープには素敵な帯がついていましたが、その理由を教えてください。

レーベルは帯のアイディアが好きなんだ! イギリスではかなりクールなルックスで…しかもかなり目を引くからね!

 

 

音楽(音)ビジネスの未来と可能性について

Nick Luscombe photo

 

・サブスクリプションは、音楽(音)の消費を大きく変えました。これについて、どのようにお考えですか?

2006年から2010年までiTunesでヨーロッパの音楽編集者として働いていたとき、Spotifyの初期の隆盛を目の当たりにしましたが、当時の私はサブスクリプションサービスの未来がこれほど巨大になるとは想像もしていませんでした。しかし、これほど多くの音や音楽にアクセスできるようになったことは、多くの意味で素晴らしいことだと言わざるを得ません。CDやテープ、レコードをよく買いますし、7インチシングルでDJをするのも大好きです。サブスクリプションのおかげで、若い音楽ファンは、私が古い物理的な時代に何十年もかかったレコード音楽の歴史を、数年で知ることができるようになりました。

・音楽メディアの変容(ダウンロード販売)は、文化を大きく変えました。(音楽メディアの陳腐化、レコード店の閉店など)これについてはどうお考えでしょうか?

しかし、今ではインストア・イベントが復活し、レコードが復活し、テープが復活し、CDも一時期は減少していましたが、再び人気が出てきました。

デジタル・ストリーミングと並んで、質の高い物理的な製品への需要が高いのです。音楽は、これまで以上に入手しやすく、より愛され、より求められているのだと思います。重要なのは、リリースされる音楽とサウンド、そして人々が音楽を購入し、聴くという体験において、クオリティが高い状態が維持できていることです。


・プロダクション・アーティストにとって、今は恵まれた時代だと思いますか? これについてはどうお考えですか?

イエスでもありノーでもありますね…一定のクオリティに満たない作品が溢れていることも確かですが、素晴らしいミュージシャンも多いです。本当に特別なものを聴くと、逆にそれが際立つと思うんです。 私は、量よりも質の高い、特別な音楽をいつも探しています。

 

 

写真提供:Nick Luscombe

  • interview 
  • sound 
  • 2022年12月12日