PARALLAX RECORDS

ミュージシャンのオーナーと実験ターンテーブリストの店長による、
選りすぐりのタイトルが手に入るお店

 

ノイズ・アバンギャルド系を扱って京都で30年の歴史を持つ「PARALLAX RECORDS」は、ノイズやサウンド・アート、現代音楽では有名な老舗レコードショップです。そのオーナーであり、ミュージシャンでもある森公保さんと実験ターンテーブリストとしても活動されている店長の毛利桂さんにお話を伺いました。

 

 

「PARALLAX RECORDS」の開店 PARA discレーベルの発足

「PARALLAX RECORDS」は1992年1月に開店し、当時は京都の阪急烏丸駅近くのマンションの一室からはじまりました。その当時は、まだインターネットがまだ普及していない時代で、楽器店が歌謡曲のカセットテープやレコードを取り扱うのが主流でした。ノイズや現代音楽、サウンド・アートなどのノイズ・アバンギャルド系(以下、総称してノイズ・アバンギャルド系と表記)の音楽を扱う店は京都にはほとんどない時期でした。オーナーの森さんは、演奏家でもあったためノイズ・アバンギャルド系が購入できる店があったらとの思いから当時珍しかったレコードやCDを購入できる「PARALLAX RECORDS」を開店しました。その当時はメールで連絡して購入することもできなかったため、海外の仕入れは演奏家つながりで情報を入手し、他のお店で仕入れられないタイトルを仕入れられたのだそうです。また、クラブでかけられるノイズ・アバンギャルド系のタイトルをリリースするために、PARA discレーベルを発足しました。写真は当時、レーベルから出していたアーティスト達の打ち上げの模様。レーベルの発足当初の手作り物は全てDIY。ジャケットはインクジェットで印刷し、盤はCD-R。ディスクユニオンやタワーレコードなどレコード販売会社で取り扱いしていました。

 

毎日新聞社京都支局ビルへの移転とレーベルの活動

「PARALLAX RECORDS」は2000年代に、1928ビル(旧毎日新聞社京都支局)に移転します。当時、90年代から2000年代のノイズシーンを牽引してきた雑誌「電子雑音」の田野幸治さんが海外から日本へのツアーを企画していた関係で、関西方面のプロモーターとして「PARALLAX RECORDS」を経由して関西のイベント企画をしていました。この時期は、近隣のカフェで弾き語りのコンサートが開催されており、そのカフェのオーナーが大工だったこともあり施設内にスタジオを開設していました。そのカフェで「PARALLAX RECORDS」はノイズバンドやサウンドアーティストのイベントを企画するようにもなります。
日本に来日し京都に来たアーティストは、「PARALLAX RECORDS」に行き、カフェでライブを行いその足でCD制作のためのレコーディング(現在まで14タイトルをリリース)を行うようになります。月に2回ほどのペースで海外からのアーティストを受け入れいたそうです。防音されていないカフェで入場待ちの列ができ、外に音が響いて警察が来ることがありますが、特に注意されることもなく近隣からも苦情などは無かったそうです。他にも「クラブメトロ」などのライブハウスでもイベント企画をしていました。

 

PARA discレーベルから輩出した実験的DJ集団「BusRatch」そしてソロ活動へ

1998年、開店当初の店員らによって結成された実験的DJ集団「BusRatch」は、ターンテーブル8台での同時即興演奏のバンドとして活動を開始。モウリカツラとヤマモトタカヒロのデュオとして、ジャズのインプロビゼーションやジョン・ケージ、DADAや未来派の影響を強く受けています。
楽器は、ターンテーブルのみを使用し、プリペアド・レコード、シンバル、さまざまな金属、マウス・パッドなどをターンテーブル上で再生。カートリッジとアームによる音の増幅で音を即興的に構築していきます。
主なアルバムは、世界的に有名なノイズバンド「非常階段」 との共作「Hijyokaidan, BusRatch – Split Series #01」や、大友良英氏との共作「 BusRatch & Otomo Yoshihide – Time Magic City 」などがあります。また、緻密な構成で作り上げたBusRatchの代表作 「Memorium」の発売には、当時親交もあったクリスチャン・マークレーや恩田晃氏からもコメントが寄せられました。

現在は、モウリカツラ名義でソロとして活動し、主なアルバムとしては「M16 」、昨年、0奏レーベルより発売された最新作「M21」があります。「M21」は、Columbia ポータブルレコードプレーヤー GP-3のプレーヤー本体から発生するノイズをアンプで増幅しエフェクトすることで、1時間に渡って緩やかに盛り上がっていくドローンのような音楽に構成されています。「0奏」レーベルからのリリースは、2014年にロンドンのCafeOTOでの海外パフォーマンスを行うために、エンジニアとして東京・落合にある「soup」の西山伸基氏が担当したことがきっかけで、その時
のCafeOTOでのパフォーマンスは、西山氏のサウンドテクニックにより低音がカフェの店内中に響き渡り、バーカウンターのビール瓶が倒れるほどの迫力だったという逸話が残っています。

 

 

Katsura Mouri [毛利 桂] live at Multiple Tap 2014

 

オンラインショップ主流だからこそできるリアル店舗での展示とユニークなイベント

現在の店舗になってからは、店内展示とユニークなイベントを多く開催しています。第一回目の展示は、2022年3月から開催された、サウンドマン:おおしまたくろうさんの「おおしまたくろう楽器展」で、スケートボードにギターのピックアップを取り付けて音がでる「滑琴」などを展示。オーナー曰く「ジミー・ヘンドリックスのギターのノイズがするんですよ。」とのことでした。また、同年5月には中田粥展 「COUNTINUING OPERATION」を開催。日本ではあまり紹介されていないノイズシーンではありますが、サーキットベンディングの展示を企画したりと、店内展示は新しい表現の発表の場となり、広く知られていない音楽の紹介の場所となっています。

 

店内イベント サウンドマン:おおしまたくろうさんの「おおしまたくろう楽器展」

写真提供:PARALLAX RECORDS
 

 

店内イベントREYNOLS JAPAN 2022 Exhibition

写真提供:PARALLAX RECORDS

 

店内イベント 中田粥展 「COUNTINUING OPERATION」

写真提供:PARALLAX RECORDS
 

 

そして最近では、京都ならではのイベント、あんこ片手に音楽を聴くスイーツ+アンビエントミュージック=”甘美庵音(アマビエント)”開催。アマビエントに出されたあんこは、京都の名店を食べ歩いて、ようやくイベント開催直前に見つけることができたお店「かぎ甚(鍵甚良房)」のもので、選りすぐりのスイーツが出されました。参加者がその日に制作したプリアードレコードは複数置かれたターンテーブルで再生。古民家の静かな空間の中で音がミックスされ、「0奏」のメンバー、冷泉、真木大彰、西山伸基、毛利桂らによるサウンドパフォーマンスが行われました。

 

イベント 甘美庵音(アマビエント)

写真提供:PARALLAX RECORDS
 

「PARALLAX RECORDS」の空間作りからは、店主の毛利さんの鋭いセンスをうかがい知ることができます。店内には、音を視覚化するために制作された石工のターンテーブル作品なども展示されています。その他にも、ノイズ・アバンギャルド系の原点とも言えるDADAや未来派に関する品がディスプレイされ、店内は現代美術のミュージアムショップのようで、見ているだけで楽しくなってきます。ちょうど取材させていただいた日に、「日本の電子音楽」の著者でいらっしゃる川崎弘二さんが来店され、増刷されたばかりの「ストーン・ミュージック」を納品しにいらっしゃいました。「PARALLAX RECORDS」の店舗は、ふらっと立ち寄って交流が生まれるそんなお店でもあります。
店主の毛利さんは、自身が実験ターンテーブリストであることからインディペンデントで活動されている多くのミュージシャンと交流があり、CDやレコード、カセットテープなど、他の店舗では入手困難な商品が数多く入荷しています。毛利さんが実際に店頭に立たれているので、店に来て相談しながら購入できるという他店にはない「PARALLAX RECORDS」だからこその楽しみのひとつだと思います。

 

 

 

店長の毛利桂さんによる、ターンテーブルをモティーフした石工作品
 

イベント甘美庵音(アマビエント)”にて、参加者がその日に制作したプリアードレコード


基本情報


営業時間:
12:00 〜 19:00(土日祝)
13:00 〜 19:00(木金)

PARALLAX RECORDS
〒604-8035 京都市中京区桜之町407-1 新京極詩の小路ビル2F

電話・ファックス:075-211-2543

アクセス:
地下鉄東西線京都市役所前駅下車 徒歩5分
京阪三条駅下車 徒歩10分
阪急河原町駅下車 徒歩10分


定休日:
月火水曜日(祝日は営業)

Web:
www.parallaxrecords.jp


取材協力:PARALLAX RECORDS
写真提供:PARALLAX RECORDS

 

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  • 2022年10月23日