フェリス女学院大学音楽学部 サウンドアート展「とけあうひびき」

 

横浜港の山下公園の真向かいに位置する大型の神奈川県民ホール。そこで開催されたフェリス女学院大学音楽学部サウンドアート展「とけあうひびき」に行ってきました。この展示は、フェリス女学院大学音楽学部に在籍し指導にあたっている、教育者でもありサウンドアーティストでもある3人の教員とゲストアーティストによる作品と、音楽学部の学生作品から構成されています。神奈川県民ホールのひらけた展示空間を活かした、多様な切り口と思考から創り出された音の響きに焦点を当てた展示となっていました。

 

 

瀬藤康嗣+三浦秀彦「ササさささ」

瀬藤康嗣+三浦秀彦による作品「ササさささ」

 

まず、地下一階の展示室へ向かう入り口に展示されている瀬藤康嗣+三浦秀彦による作品「ササさささ」。大きな竹が2本あり、設置された扇風機の風によって笹の葉が揺れることで発せられる繊細な「サ〜」というホワイトノイズのような気持ち良い音に出迎えられます。

 

 

中西宣人「On The Waves : stillness」

中西宣人「On The Waves : stillbess」-1

 

中西宣人「On The Waves : stillbess」-2

 

展示室へ進むと、中西宣人による「On The Waves : stillness」と「Infernal Machine : motion」があります。「On The Waves : stillness」はアクリルケースに霧を発生させるデバイスを内蔵しており、噴霧された霧が水滴となって落ちると、その水位によって音が再生される仕組み。透明感の
ある心地いい響きがランダムに聞こえてくる作品です。

 

 

中西宣人「Infernal Machine : motion」

 

中西宣人によるクロージングパフォーマンス

 

そして次の「Infernal Machine : motion」は、ボックスにスピーカーが取り付けられ、コンピューター制御でエレクトロニクスなサウンドを再生しながら、位置情報をセンシングしつつ動き回ります。これまでスピーカーは固定された物として存在していましたが、スピーカー自身が動くことで、新たな音響空間について体感できる作品です。

 

 

sawako「夢 音 粒 floating sound particles」

 

 

次は、sawakoによる作品「夢 音 粒 floating sound particles」。sawakoが展示会場を視察し、横浜港から受けたインスピレーションを出発点にイメージを膨らませ、暗い展示室に水琴窟で収録された音などのアンビエントな4チャンネル音響と映像が投影される作品です。

 

 

瀬藤康嗣+三浦秀彦「もうにんげんはつかれた」

瀬藤康嗣+三浦秀彦による作品「もうにんげんはつかれた」

 

瀬藤康嗣+三浦秀彦による作品「もうにんげんはつかれた」2

 

続いて、瀬藤康嗣+三浦秀彦による作品「もうにんげんはつかれた」。この作品は、植物(ブロッコリーやしめじなど)から発せられている微弱な電気信号をモジュラーシンセサイザーに接続し、野菜によるバンドという感覚で配置したインスタレーション作品です。

 

 

瀬藤康嗣+Michael Frank「NOBODY From NOWHERE」

 

となりで展示されていたのは、瀬藤康嗣+Michael Frankによる作品「NOBODY From NOWHERE」。瀬藤康嗣とMichael Frankは、これまで「PARADISE ALLEY BREAD & CO.」というパン屋の工房である「今此処商店」の一角で、R∞∞T Labの研究員として活動しており、酵母にフォーカスしたアートイベントを企画したり、大変ユニークな活動を多岐にわたって行っています。今回の作品は、パン工房である「今此処商店」の無人自動演奏屋台として制作された作品です。

 

 

 

瀬藤康嗣+三浦秀彦「横になる浜」

瀬藤康嗣+三浦秀彦による「横になる浜」1

 

瀬藤康嗣+三浦秀彦による「横になる浜」2

 

この展示室では、ガラス扉の向こう側に2本のマイクロフォンとオブジェが設置されています。ここで集音された音は、次の展示室の瀬藤康嗣+三浦秀彦による作品「横になる浜」で12面体の無指向性

 

三浦秀彦によるクロージングパフォーマンス

 

スピーカー+ウーハー(展示室上面に設置)に接続され、再生されています。展示室は薄暗く音に集中することができる空間で、長椅子以外は何もないというとても大胆な展示方法です。屋外からマイクロフォンによって分離されたサウンドスケープは、どこか抽象的でブラウンノイズ的な、はたまたホワイトノイズ的な音が充満していて、時々、具体的な音響が混ざり合って包み込まれます。

 

 

 

 

瀬藤康嗣+三浦秀彦による作品「風が吹けば」

瀬藤康嗣+三浦秀彦による作品「風が吹けば」1

 

県民ホールの中央部分に差し掛かると瀬藤康嗣+三浦秀彦による作品「風が吹けば」が現れます。この作品は、3段の桶の中央にスピーカーが設置され、その上部にダイナミックマイクが揺れて近づいたり離れたりすることでハウリングが発生し音が再生されています。

 

瀬藤康嗣+三浦秀彦による作品「風が吹けば」2

 

瀬藤康嗣によるクロージングパフォーマンス

 

揺れ動く仕掛けは、マイクの少し上あたりに葉が付けられていることで、3台の扇風機の風を受け、ランダムにハウリング現象が起こるようになっています。作品の原型は、スティーブ・ライヒの作品「振り子の音楽」であり、中川克志さんがTwitterでツイートしていましたが、小杉武久さんを代表とするアバンギャルド音楽などでよく用いられていた扇風機を使っているあたりの系譜や、日本的な素材や要素を組み合わせて盛り込んだ作品です。

 

 

 

中西宣人+赤川智洋「Feelings of Droplets : device」

中西宣人+赤川智洋「Feelings of Droplets : device」1

 

中西宣人+赤川智洋「Feelings of Droplets : device」2

 

中央の階段を上がると中西宣人+赤川智洋による作品「Feelings of Droplets : device」が見えてきます。LEDの光の美しさが印象的で、角筒の上部に手をかざすとセンサーが作動し、

 

 

青いLEDが光りながら落ちてきて「ポン」と音がするデジタル水琴窟のような作品です。

 

 

 

 

1階の展示室は学生の作品で、全体的にプログラミングや音楽制作、映像作成をデジタル的な要素を使いこなして制作しているものが多かったのが印象的でした。

 

 

その中でも、水槽にメダカが泳ぎ、上部のカメラでメダカの位置を検出して音楽が生成されている作品、星杏優菜さんによる「おたまじゃくしを用いた音楽生成装置」が面白いと思いました。どの作品も初めて展示を行ったとは思えない完成度です。

 

 

 

 

一通り作品を見終えて展覧会のタイトル「とけあうひびき」に立ち返ると、意味がようやく分かったような気がしてきました。展示室毎では、個々の作品に集中して聴きたいと思うことも度々ありましたが、順路に沿って回って行くと、各展示室で他の作品の音が混ざり合い、場所毎に音が変化し響きの異なった空間が存在していました。さらにホール中央、最も開けたスペースに差し掛かると、全体的な音が混ざり合うポイントがあり、「とけあうひびき」が体験できる箇所となっていて、このホール全体が譜面の機能を担っているようにも感じられました。これは、キュレーターの難波祐子さんよって、空間と時間の鑑賞体験に配慮された仕掛けとして展示構成されているのだと思います。

また、空間と音の関係を考えた時に、コンピュータープログラムによって可能になった新たな表現方法や極端とも思えるプリミティブな現象と手法によるアプローチ、そして空間や映像と音による複合的な作品までが、参加アーティストの多様な思考によって提示されており、その幅の広さが展覧会の深みとして面白さに繋がっていると感じました。一週間という少し短い展示期間ではありましたが、トークイベントやワークショップ、パフォーマンスイベントなどの企画が盛り込まれており、とても楽しめる展覧会でした。

 

 

 

 

関連イベント

3/18オープニングトーク「サウンドアートってなに?」

 

3/21ワークショップ「『とけあうひびき』づくり」

 

3/23パフォーマンス

 

3/25クロージングパフォーマンス

 

 

 

 

基本情報

フェリス女学院大学 音楽学部サウンドアート展
「とけあうひびき」

https://ferris-music.com/exhibition2023/

2023年3月18日(土)〜25日(土)
10:00-18:00(最終入場は17:30まで)
※3月20日は休場

神奈川県民ホールギャラリー
入場無料

 

出展作家

瀬藤康嗣
中西宣人
sawako
フェリス女学院大学 音楽学部生

ゲスト作家

三浦秀彦

キュレーター

難波祐子

  • art 
  • exhibition 
  • 2023年4月20日