サウンドアートやフィールド・レコーディング、実験音楽などを扱う日本のレコードレーベル「immeasurable」より発売されているアルバム『Time: 18:33_19:43 Date: 06 Aug 2015 Latitude/Longitude: 34°23’47.8″N 132°28’16.3″E』について、作者のYoungso No氏にインタビューさせていただきました。
Youngso No 『Time: 18:33_19:43 Date: 06 Aug 2015 Latitude…』は、広島へ原子爆弾が投下されてから70年という節目を迎える中、フィールド・レコーディングの手法を用いて、2015年に録音され制作された作品です。現地で録音されたサウンドと聴覚では聞きとることができない波長VLFとELFを織り交ぜたサウンドは、時間を超越するかのような感覚を呼び起こし、サウンドが持つその生々しいリアリティーによって、70年前に起こったその場所の出来事について迫っています。
第3弾として発売されたYoungso No 『Time: 18:33_19:43 Date: 06 Aug 2015 Latitude…』。edition.nordによるomni typography手法(形式)によって構成されたパッケージデザイン。
Q1:なぜ広島をテーマとして選んだのでしょうか?考えなどをお聞かせください。
A1:周知のように音楽は時間芸術の1つに分類されます。歴史とは長大な時間の流れにある出来事の記録(レコード)ですので音楽は他の媒体よりも歴史を扱うことに長けているのではないか…と常々、思ってきました。
様々な試作を行っていた時期、第二次世界大戦から70周年という節目が近づいていたので1945年の出来事を調べていくうちに、やはり広島に人類史上初めて原子爆弾が投下されたこと (=つまり多数の民間人が犠牲になると事前に分かっていたにも関わらず、人に対して核兵器が使用された事実)が1945年の一番の大きな出来事ではないかと思い、リサーチを開始しました。広島の原爆が投下されたのは日本だけでなく、世界において歴史的な出来事で多くの無辜の民(むこのたみ)が亡くなり、生き残った被爆者や二世の方々は後遺症に苦しみ、差別されました。
『有名な人々よりも、名もない人々の記憶に敬意を払うほうが難しい。歴史の構築は、名もない人々の記憶に捧げられている。』この言葉は、ダニ・カラヴァンによるヴァルター・ベンヤミンのためのモニュメント(墓碑)に刻まれている言葉です。
現代に生きる私が、“名もない人々の記憶”や“他者”へ敬意を払うことは如何に可能か?これが、この作品の出発点となっています。
この出発点とリサーチ、それまでに試作(思索)してきた形式の応用で出来たのが本作になります。
Q2:フィールド・レコーディングが近年、民俗学や社会学者など、サウンドアーティスト以外のプレイヤーによって手法として用いられるようになり注目されています。Youngso Noさんにとってフィールド・レコーディングという表現方法について考えなどをお聞かせください。
A2:日本ではフィールドレコーディング(以下、FR)に関する書籍が続けて販売されていることもありまるでFRが盛り上がっているように感じますが、世界的にFRが注目されているのかは知りません。またFRのシーンがあるか否かは、私にとっては関心がないのでなんとも言えません。現在のところ、私にとってFRという手法は即興演奏やアルゴリズミック・コンポジションなどへのある種の批判(吟味)であると同時にそれら以上の可能性を秘めている形式であると考えています。
Q3:音を表現の素材として用いることについて考えをお聞かせください。 また、音の可能性についてお聞かせください。
A3:私はあまり“表現”という言葉を好みませんのでこの質問は少し難しいですね…。
音楽・音響というメディアで出来うることを考えて制作をしていますが取り組む主題において、絵画や文学、映像が適しているのなら、それらの方法をとるでしょう。昔から言われてきたことですが、音は不可視であることが大きな可能性であると思っています。私は忘れっぽいので常にこのことを心掛けるようにしています。
Q4:VLF・ELF波それぞれを選んだ理由についてお聞かせください。
A4:音と同様に目に見えない(=不可視である)電波や電磁波に興味がありました。身近な例でいえば、ラジオも電波の1つですね。音、電波、放射能、そしてウイルスも全ては目に見えないものです。今となっては廃れたようですが、VLFとELFは軍用無線(潜水艦への通信など)として使用されていた歴史があります。またオーロラ(大気の発光現象)を可聴域に変換する受信機としてVLFとELFは使用されることがあります。原子爆弾はピカドン(Pika-Don)と呼ばれ、凄まじい“光”を放ったことはよく知られています。本作で使用したのは、軍事と関わりのあったこと、光の現象を可聴域へ変換する装置であることが主な理由です。
*他にもいくつかの理由があるのですが、細かく長くなるので割愛します。
Q5:その時に切り取った音や波形に内在する意味性や場所性など、複雑に絡み合った広大な深い層として響いているように感じられます。この作品では、音をどの様な意図で編集しましたか?
A5:先ず断っておきたいのですが、本作では編集をなるべく最小限に抑えるようにしました。作品として収録した前後の余分な部分のデータを消去し、各トラックのレベルを調整したくらいでEQの操作やコンプレッサーなどは一切使用していません。
EQやコンプレッサーなどを使用し、“正しい音”や“決定的な音”を求め出した途端に作品の主題より作家の主体性が前傾化してしまうのではないかと私は危惧しました。そこで私は本作で使用した録音機材や制作に用いた再生環境(モニターやオーディオ・インターフェースなど)を公(オープン)にすることにしました。全ては使用した機器を通過し、捉えたものであるということを明らかにしておきたかったのです。
この作品におけるノイズの要素のほとんどは、VLFレシーバーとELFレシーバーが受信したサウンドです。シンセサイザーやオシレーターの音を足したり、録音した素材にエフェクト処理などは全く行わずFRとVLFレシーバーとELFレシーバーが受信したサウンドのみを収録しています。
Q6:今後、音でどの様な作品を制作したり、音を使った取り組みを行っていきたいですか?
A6:それは秘密にしておきましょう(笑)
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文責:相澤 和広
これまで今回発表された作品を含め、2作品をフィールド・レコーディングの手法を用いて制作を行っています。
新作 Youngso No『JST: Solar Noon, Kyotango: Summer Solstice, Akashi: Winter Solstice』
Youngso No 『Time: 18:33_19:43 Date: 06 Aug 2015 Latitude…』