レコード・プレーヤー

レコード盤よる表現と遊び

 

デジタルデータや音楽配信が当たり前の時代に、音楽がモノとして存在するレコードメディアはCDとは違ったモノの魅力が新鮮に見えてきます。今回は、表現の素材としてレコードを使うアーティストや、レコードを使ったワークショップについてご紹介します。レコードメディアを使った表現は、音楽メディアがCDへと変わった80年代の頃に現れました。その頃に開発されたレコードスクラッチによって、ラップやヒップホップなどの当時の音楽が生まれました。クリスチャン・マークレイのインタビューによると、当時のニューヨークは、街角でいつでもレコードが手に入り、そこら中に“クズレコード”があふれていたと回想しています。ラップやヒップホップのブラックミュージックを生み出した黒人たちが、安価で大量に消費され捨てられているレコードを素材として使うのは、当たり前だったのかもしれません。美術の領域でもレコードを素材に制作された作品やサウンドパフォーマンスを行う作家が現れました。

その代表的な作家はクリスチャン・マークレイです。1980年から美術と音楽を横断するような活動をします。当時は、No Waveが席巻していたこともあって、ギターの弾けないアート・リンゼイのDNAやMARSからの影響を受け、レコードを楽器として演奏するためのフォノギターを制作、ジョン・ゾーンなどの周辺の即興演奏家とのコラボレーションに繋がっていきます。 また、「実際には聞こえない音」を表現するビジュアル作品として、鑑賞者に音は聞こえないけれど、想像力を刺激して「頭の中で音を再生する」作品を制作するようになります。

具体的には、素材をレコードジャケットや磁気テープ、電話機やスピーカー、楽器の一部などを使って作品を作り出しました。

 

 

出典:美術手帖 1996年12月 サウンド・アートより

 

マークレイは、音楽と美術の交差する部分の領域を拡大し、サウンド・アートの基盤を作り上げました。後にマークレイから影響を受けた大友良英とも共演しています。

 

 

 

レコードメディアを使った美術表現を辿ると、フルクサスの活動に参加したチェコの作家、ミラン・ニザックも注目すべき存在です。ミラン・ニザックは、1965年頃からに壊れたレコードを再生すると、新しく攻撃的でおもしろいことを発見しました。このことをきっかけに彼の代表作「broken Music」が生まれます。その後、レコード同士を接着したり、ペイントや焼き付けを施したり、異なるレコードの一部を切り取って貼り付けるなどのインスタレーション作品に展開していきます。ミラン・ニザックは、音楽やレコードのインスタレーション作品が有名ですが、ウェブサイトを覗くといろいろな作品を制作しています。
https://www.milanknizak.com

 

 

 

出典:Broken Music ライナーノーツより

ヲノサトル「sauvage」

ヲノサトルは、レコードから発生するノイズや、レコードの再生が終わった部分の音やレコード針で引っ掻いた時の音をサンプリングし、楽曲とミックス・再構築した音楽作品「sauvage」を発表しています。

 

 

https://www.youtube.com/embed/8w3s6ZQklGQ
https://www.youtube.com/embed/G3659c9cXbc

 

 

八木良太「vinyl」

レコードをシリコンで型取りし、そのシリコン型に水を流し込んで冷凍庫で氷に固め、固めた氷(=レコード)を再生する作品を発表しています。はじめは再生されていた音が、徐々に氷が溶け出し変化して行く様子は不思議な魅力を再生しています。

https://www.lyt.jp/

 

 

 

藤本由紀夫「delete」

この作品は、記録されたミゾが削り取られ、残されたレコードラベルだけでアーティスト名や楽曲が分かる状態になっています。レコードとしての記録が消去されてしまった状態と、残されたレコードラベルだけがブランドロゴの様にその価値を主張している…その作品を鑑賞している感覚の面白さは、本来の役割りが別の価値に変容してしまった状態だと思えます。

 

DELETE (THE BEATLES) ABBEY ROAD 2007

DELETE (THE BEATLES) ABBEY ROAD 2007

 

 

レコードを使ったサウンドワークショップ

レコードを触れたことも、見たこともない子ども達向けに、 自由にレコードを組み合わせて簡単に再生できる実験ワークショップを行いました。レコード盤をあらかじめカットし、ハードロックやクラシック、J-POPなどのジャンルをシャッフルして机に並べ、二つのレコード盤を簡単に組み合わせることができるようにしたディスクを自作しました。最初はレコード自体に戸惑っていましたが、次第にレコードを組み合わせることで音楽のコラージュが簡単にできることに夢中になっていました。かつてサウンドアーティストがレコードを試行錯誤して発見した「おもしろさ」から作品を作り出したのと同様に、現代の子ども達も、レコードを通して再生した音から「おもしろさ」を感じるという部分は共通しているようです。

 

 

レコードは80年代までメディアとしての役割を果たし、90年代からは内在する音「モノ」として変化し、サウンドアートの一つの側面として存在しました。これから先もレコードが消えることはなく、音を表現するアーティストにとってマルチプルな意味合いとして生き続けるのではないかと思います。

 

 

〈 引用・参考文献 〉

・美術手帖 1996年12月 サウンド・アート

・音響メディア ナカニシヤ出版

・中川克志 Audible Culture

 

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  • 2021年7月9日