Nick Luscombe氏のインタビュー第二回目、今回は、Nick氏が進めるMSCTYプロジェクトと、東京大学のMenu Earth Labと共同プロジェクト『Otocare project』についてお話を伺いました。
MSCTYプロジェクトは、ブリティッシュ・カウンシル、アーツ・カウンシル・イングランド、ロンドン市から資金提供を受けたプロジェクトや、多数の地域・国際的なパートナーとともに、場所、建築(空間)、音の相互作用に対する新しいアプローチで、グローバルに先駆けたクリエーションやプロジェクトをウェブサイト上で発表しているものです。
他、MSCTYプロジェクトは、MSCTY_LOCATIONS、MSCTY_EXPO、MSCTY_TXと活動が分類され、MSCTY_EXPOのFIELDWAVE: IMAGINARY LANDSCAPESでは、コンピレーションアルバム『Fieldwave』の音源として収録され、MSCTY_LOCATIONSのMSCTY x The National Trustでは、Nick氏のフィールド・レコーディング作品を聴くことができます。また、MSCTY_TXの、MSCTY SCHOOL OF SOUND ARTでは、現代音楽家の思考を紐解く形でSOUND ARTのオンラインレクチャーが受講できる無料コンテンツが用意されています。MSCTYプロジェクトの活動は広範囲のため、Nick氏のインタビューに加え後半にその三つの活動内容について紹介します。
私が手がけるすべてのプロジェクトは、クリエイティブに場所とつながっている必要があるということ、それがとても重要なことです。
そうすれば、音楽やサウンドは自由な発想であらゆる方向に発展していきます。
クリエイターの皆さんは、私たちのユニークなブリーフを実現するために、例外なく、素晴らしいサウンドトラックを提供するために努力してくれています。
たくさんあって、複雑です 2020年の音響プロジェクトで一緒に仕事をしたある建築家は、一緒に仕事をした後、「以前は建築家として音を遮断する仕事をしていたが、今は物理的なデザインに不可欠なものとして捉えている」と述べています。これは、私たちが積極的に取り組んでいる事業領域です。
建築における音への興味は、ロンドンと東京を拠点とするMSCTYの活動の基礎となっています。また、最近、BBCでこのテーマに関するシリーズを発表しました。
それは非常に複雑な分野です。私が興味を持っていることのひとつは、都市における音の民主主義です。
録音された音は、非常に魅力的であると同時に、非常に傷つきやすいものです。何かが録音されているとしたら、それはたいてい理由がある。それがラブソングであれ、水道の蛇口の水滴の音であれ、山羊の声であれ……。
もともとは、2010年にロンドンで、特定の場所のために作られた音楽を、専用アプリで配信し、音と空間の共有体験を作り出そうというアイデアに触発されて始まりました。当時、私は4年間勤めたiTunesを退職し、BBCラジオのDJとして働き始めたばかりで、デジタルミュージックとキュレーションに飢えていました。
2012年にブリティッシュ・カウンシルと共同で東京とシンガポールで開始し、その後10年以上かけて世界中に広めていきました。
初期の頃は、私がすべてのアーティストを選んでいましたし、今もそうしている傾向があります。これは、プロジェクトがクリエイティブなビジョンを持って集中できるようにするためでもあり、また、私が多くの素晴らしいアーティストを知っていて幸運だったということでもあります。また、他のアーティストの提案にも積極的で、イギリスのブリストルにあるサフランのチームなど、他の人々や組織とコラボレーションしたこともあります。
2012年に開催された日本のMSCTYでは、現地の制作チームとコラボレーションを行いました。
研究目標を発展させ、2023年に向けて各地で大きなプロジェクトが具体化しています。
ダブルカセットと12ページのブックレットが収められているMSCTYの限定ボックスセット。
この作品は、2020年のロンドン・デザイン・フェスティバルの一環として立ち上げられたMSCTY_EXPOの「UNKNOWN PLEASURES」のために制作されたもので、参加アーティストによる、建築家UNBUILT + UNREALISEDの作品をテーマに構成された楽曲が収録されています。
参加アーティストは、LORAINE JAMES、BILL FONTANA、HANNAH PEEL、DANIEL LIBESKIND、RICHARD ROGERS、LILY JENCKS、YURI SUZUKI、MCCONVILLE、PIM.STUDIO、ELSIE OWUSU、NIETO SOBEJANO ARQUITECTOS、CHISARA AGOR、YUVAL AVITAL + AB ROGERS です。
私は、東京大学のMenu Earth Labとのプロジェクトで、2020年から、自然界や人工物において音が果たす役割を研究しています。
2020年から、東京大学のMenu Earth Labと共同で、自然界と人工物において音が果たす役割について研究しています。その結果、プロジェクトリーダーの森下先生との会話から、音と健康というアイデアが生まれ、ちょうど日本でパンデミックが第一波として流行し始めた頃でした。
よく使われる「癒し」ではなく、「ケア」こそが私たちが目指すべきものだと考え、音とケアを意味するOTOという言葉を組み合わせました。
サウンドアーティストやミュージシャンとのコラボレーションをもっと増やしていきたいと思っていますし、制作中の作品のために別のオフショット・レーベルも立ち上げました。また、東京の植物園のプロジェクトのために、日本在住のサウンド・アーティストを対象とした公募を開始しました。
募集要項 >>https://memuearthlab.jp/2022/11/30/open-call-sounding-garden/
Menu Earth Labのsound cloudでは、これまで参加された研究者やアーティストによるフィールド・レコーディング作品、アンビエント作品が多くアップロードされ、聴くことができるようになっています。
MSCTY_StudioのNick LuscombeとRobin The Fogが、歴史的建築物の保護を目的として英国のボランティア団体「The National Trust」と共に、英国ケント州にあるエメッツ・ガーデンで行われている「the Garden’s Fungi Festival」(庭園の菌類祭)にてフィールドレコーディングワークショップを開催した記録です。ワークショップでは、Nick Luscombeによるハイドロフォンを使った水中録音や、Robin The Fogによるビンテージテープレコーダーを使ったフィードバックテクニックを用いた音源など、庭園の場所性を元にクリエーションされたサウンドスケープ、7つのシリーズ音源を聴くことができます。
サウンド・アーティストで英国BBCのサウンドエンジニアでもあるRobin The Fogによるサウンド・アートのオンラインレッスンが公開されています。現在公開されているレッスンは3本。
「Term 1 Lesson 1」では、アルヴィン・ルシエの「I am Sitting in a Room」
の思考、プロセスについて解説し、美しいドローン・サウンドを制作します。
「Term 1 Lesson 2」はメレディス・モンク、アンネア・ロックウッド、ラスリー・バッシェの作品を題材にテープループを用いて音源制作について解説しています。「Term 1 Lesson 3」は、音声フィードバックから生成される音響について、その制作プロセスを解説しています。
世界のフィールドレコーディングやサウンドレコーディングの多様性と可能性、音の表現を実験するスペースとして活動が紹介されています。二回目のインタビューでご紹介したコンピレーションアルバム「field wave」Vol.2に収録された『Tokyo TR』は、このMSCTY_EXPOからの音源が収録されています。